2026年10月20日

「血圧は少し高め、コレステロールも少し高め、血糖も境界域。でも、どれも”少し”だから大丈夫」と思っていませんか。動脈硬化は、自覚症状がないまま長い年月をかけて進み、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの危険因子が重なるほど、進むスピードが速くなります。この記事では、動脈硬化が静かに進む仕組み、危険因子の「重なり」という考え方、当院でできる検査、そして今日から始められる生活改善と通院を続ける大切さを、慶元クリニックが解説します。

動脈は、心臓から送り出された血液を全身へ運ぶ血管です。若いころの動脈はしなやかで、内側の壁もなめらかです。ところが、年齢を重ねたり、血管に負担のかかる状態が続いたりすると、動脈の壁が厚く硬くなり、内側が狭くなっていきます。この状態を動脈硬化といいます。
動脈硬化の多くは、血管のいちばん内側にある薄い膜(内皮)が傷つくところから始まります。高い血圧で押され続けたり、高い血糖や喫煙の影響を受けたりすると、内皮が少しずつ傷み、そのすき間からLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が壁の中に入り込みます。入り込んだコレステロールは、体を守る細胞に取り込まれ、やがて「おかゆ」のようなやわらかい塊(プラーク)になって、血管の壁を内側から盛り上げていきます。
血管の内側には、痛みを感じる仕組みがほとんどありません。また、血管は少し狭くなったくらいでは、血液の流れが大きく変わらないため、体はしばらく何事もなかったかのように働き続けます。症状が出るのは、狭くなる程度がかなり進んだときや、プラークが破れて血のかたまり(血栓)ができ、血管が急に詰まったときです。
つまり動脈硬化は、「症状が出てから気づく」のでは遅い病気です。健診の数値や日ごろの血圧の記録といった「目に見える手がかり」から、早めに気づいて手を打つことが何より大切です。
動脈硬化は、心臓の血管だけ、脳の血管だけといった一部分で起こるものではありません。首の血管、足の血管、腎臓の血管など、全身の動脈で同時に進んでいることが多いのが特徴です。ある場所で動脈硬化が見つかったら、ほかの場所でも進んでいる可能性があると考えます。

動脈硬化を進める要因を「危険因子」と呼びます。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、主な危険因子として次のようなものが挙げられています。
健診で「血圧が少し高め」「コレステロールが少し高め」「血糖が境界域」と、それぞれ軽い指摘を受けている方は少なくありません。1つひとつは「様子見」と言われる程度でも、複数が重なると、血管への負担は単純な足し算ではなく、掛け算のように大きくなることが知られています。
世界52か国の患者さんを調べた大規模な研究(INTERHEART研究)では、喫煙、脂質の異常、高血圧、糖尿病、お腹まわりの肥満、ストレス、野菜や果物の不足、運動不足、飲酒習慣という、身近な9つの要因で、心筋梗塞のリスクの大部分(9割前後)が説明できると報告されています。言い換えれば、多くの心筋梗塞は、日々の生活や治療で手を打てる要因の積み重ねから生まれているということです。
そのため最近の考え方では、コレステロールの値だけ、血圧の値だけを見て治療の必要性を決めるのではなく、年齢・性別・血圧・血糖・脂質・喫煙の有無などを合わせて、「その人が今後10年間に動脈硬化による病気を起こす可能性」を見積もり、目標値を決めるようになっています。同じコレステロール値でも、喫煙や糖尿病がある方では、より厳しい管理が勧められるのはこのためです。

動脈硬化そのものは症状がありませんが、進んだ先では、命や生活に関わる病気につながることがあります。ここでは代表的なものを簡単にご紹介します。
これらは心筋梗塞や脳梗塞のサインである可能性があります。様子を見たり、ご自身で運転して受診したりせず、ためらわずに救急車を呼んでください。いずれも、治療開始までの時間が早いほど、後遺症を少なくできる病気です。
ここで大切なのは、こうした病気は「ある日突然」起こるように見えて、実際には何年も前から血管の変化が進んでいることがほとんどだという点です。だからこそ、症状のない今の段階で危険因子を整えることに意味があります。

慶元クリニックでは、生活習慣病の診療の一環として、動脈硬化の危険因子を確認するための検査を院内で行っています。
これらを同時に調べることで、危険因子がいくつ重なっているかを一度に整理できます。脂質の異常の背景に、甲状腺の働きの低下が隠れていることもあり、必要に応じてあわせて確認します。
心臓のリズムの乱れや、長く続いた高血圧で心臓に負担がかかっていないか、心臓の筋肉への血流に変化が出ていないかの手がかりを得られます。数分で終わる、痛みのない検査です。
お腹の超音波検査では、脂肪肝など、生活習慣病と関わりの深い臓器の状態を確認できます。脂肪肝は、内臓脂肪の増加や血糖・脂質の異常と一緒にみられることが多く、生活習慣を見直すきっかけになります。
血圧は、診察室で測る値だけでなく、ご自宅で朝と夜に測る「家庭血圧」がとても参考になります。記録をお持ちいただければ、診察の際に一緒に確認します。
首の血管の詳しい評価や、血管の硬さ・足の血管の詰まり具合を調べる専門的な検査が必要と判断した場合は、専門の医療機関をご紹介します。
高血圧は高血圧の、糖尿病は糖尿病の、と別々に考えていると、全体としてどれくらい血管に負担がかかっているかが見えにくくなります。当院では、地域のかかりつけ医として、複数の危険因子をまとめて見渡し、「今いちばん優先して整えるべきものは何か」を一緒に考えることを大切にしています。

動脈硬化は、一度できたプラークを完全に元に戻すことは簡単ではありません。しかし、危険因子を整えることで、進むスピードをゆるやかにし、心筋梗塞や脳梗塞を起こす可能性を下げることができます。
全部を一度に変える必要はありません。「たばこをやめる」「夕食の汁物を減らす」「エレベーターではなく階段を使う」など、続けられそうなことを1つか2つ選んで始めるのが長続きのコツです。
生活改善だけでは目標に届かない場合や、もともとリスクが高い場合には、血圧・血糖・コレステロールを下げるお薬を使うことがあります。お薬は、数値を下げるだけでなく、血管を守って将来の病気を防ぐためのものです。数値が良くなったからといって自己判断でやめると、再び数値が上がり、血管への負担が戻ってしまいます。減量や中止を考えたいときは、必ず医師にご相談ください。
動脈硬化の管理は、短期間で結果が出るものではなく、何年も続く「長距離走」です。定期的に通院していただくことで、次のようなことができます。
当院は日曜の午前も診療しており、WEB・LINEでのご予約にも対応しています。お仕事が忙しい方も、無理なく通院を続けられる方法を一緒に考えましょう。
動脈硬化は、痛みなどの自覚症状がないまま全身の血管で静かに進み、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・加齢といった危険因子が重なるほど、進むスピードが速くなります。1つひとつの数値が「少し高め」でも、重なっていれば血管への負担は大きくなるため、病気ごとではなく血管全体として管理することが大切です。心筋梗塞や脳梗塞は突然起こるように見えて、その多くは何年も前からの血管の変化が背景にあります。禁煙や減塩、運動など続けられる生活改善から始め、定期的な検査で変化を確かめていきましょう。健診で複数の項目を指摘された方や、ご自身の血管の状態が気になる方は、健診結果をお持ちのうえ、どうぞお気軽に当院へご相談ください。
・日本動脈硬化学会 編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」日本動脈硬化学会
・Tomonori Okamura, et al. Japan Atherosclerosis Society (JAS) Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases 2022. J Atheroscler Thromb. 2024;31(6):641-853. doi:10.5551/jat.GL2022
・Salim Yusuf, et al. Effect of potentially modifiable risk factors associated with myocardial infarction in 52 countries (the INTERHEART study): case-control study. Lancet. 2004;364(9438):937-952. doi:10.1016/S0140-6736(04)17018-9
・厚生労働省 e-ヘルスネット「動脈硬化」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
・慶元クリニック 診療案内(https://keimotoclinic.com/information/)