2026年8月18日

「痔」と聞くといぼ痔を思い浮かべる方が多いですが、排便時に切れるような痛みがある場合は「裂肛(切れ痔)」かもしれません。原因と、繰り返さないための生活習慣を慶元クリニックが解説します。

「痔」という言葉から多くの方がイメージするのは、肛門の血管がうっ血して腫れる「いぼ痔(痔核)」かもしれません。しかし、痔には大きく分けて「痔核」「裂肛(切れ痔)」「痔瘻」の3種類があり、それぞれ原因も症状も異なります。
裂肛は、硬い便を排出する際などに肛門の皮膚が切れてしまう状態です。排便時にピリッとした鋭い痛みがあり、排便後もしばらく痛みが続くことが特徴です。出血はあっても、痔核ほど多量ではなく、紙に少量つく程度であることが多いです。
痔核(いぼ痔)は肛門の血管がうっ血して腫れる病気で、痛みよりも出血や脱出感が主な症状であることが多いのに対し、裂肛は「切れる」という物理的な傷であるため、排便時の痛みが際立つという違いがあります。また痔瘻は肛門周囲に膿の通り道ができる病気で、これも裂肛とは全く異なる病態です。同じ「痔」という言葉でくくられていても、原因も治療方針も異なるため、正しく見分けることが大切です。
裂肛の傷ができる場所にも特徴があり、肛門の後方(背中側)にできることが多いとされています。これは、排便時に便が通過する際の力のかかり方や血流の乏しさが関係していると考えられています。慢性化を繰り返す方の中には、同じ場所に何度も傷ができてしまうケースも少なくありません。

裂肛の最大の原因は「便秘による硬い便」です。硬く太い便が肛門を通過する際に、皮膚に負担がかかって切れてしまいます。一方で、下痢を繰り返すことも肛門への刺激となり、裂肛の原因になることがあります。
若い女性に裂肛が多いと言われるのは、便秘になりやすい体質やダイエットによる食物繊維不足が関係していると考えられています。また、出産後の女性や、ストレスで自律神経が乱れやすい方も、便通が不安定になりやすく裂肛のリスクが高まる傾向があります。
厄介なのは、裂肛によって排便時に強い痛みを感じるようになると、その痛みを避けようとして排便を我慢する方が多いことです。便を我慢すると便がさらに硬くなり、次の排便でまた切れてしまう、という悪循環に陥りやすいのが裂肛の特徴です。
さらに、排便時の痛みによって肛門の筋肉(内肛門括約筋)が反射的に緊張し、締め付けが強くなることも、傷の治りを遅らせる一因になります。締め付けが強い状態では血流も悪くなり、傷が治りにくいだけでなく、次に硬い便が通る際にさらに強い力がかかって再び切れる、という負のサイクルが生まれやすくなります。

裂肛を繰り返すうちに、傷が治りきらないまま慢性化することがあります。慢性化すると、肛門の皮膚が硬くなって「見張りいぼ」と呼ばれる皮膚のたるみができたり、肛門が狭くなる「肛門狭窄」を起こしたりすることがあります。
肛門が狭くなると、便がさらに通りにくくなり、排便のたびに切れやすい状態が続いてしまいます。ここまで進行すると、生活改善だけでは改善が難しく、専門的な治療が必要になることもあります。「そのうち治るだろう」と放置せず、痛みが続く段階で相談することが大切です。
さらに、排便への恐怖心から便を我慢する習慣が定着してしまうと、便意そのものを感じにくくなることもあります。こうした悪循環は精神的なストレスにもつながりやすく、生活の質を大きく低下させる要因になります。「トイレに行くのが怖い」という感覚が強くなると、外出や旅行を控えるようになるなど、日常生活の行動範囲にまで影響が及ぶこともあります。
また、慢性裂肛の一部は、単なる便秘だけでなく、肛門周囲の血流不足が背景にあるとも考えられています。特に冷え性の方や、長時間同じ姿勢で座り続ける生活習慣のある方は、血流の低下が傷の治りを遅らせる要因になっている可能性があります。

裂肛の予防・改善には、便を柔らかく保ち、肛門への負担を減らすことが基本になります。
これらの工夫は、いぼ痔や痔瘻の予防にもつながる基本的な習慣です。特に食物繊維は、野菜だけでなく海藻類や豆類、きのこ類など多様な食材から摂ることで、便のかさを増やしつつ柔らかく保つ効果が期待できます。水分もあわせてこまめに摂ることを意識しましょう。
また、トイレでスマートフォンを見ながら長時間座り続ける習慣がある方は、それだけで肛門周囲への負担が続いていることになります。用を足したら長居せず切り上げる、いきむ時間をできるだけ短くする、といった意識も予防につながります。冷えは血流を悪くし排便リズムを乱す一因にもなるため、特に季節の変わり目は体を冷やしすぎないよう心がけましょう。

当院では、問診と視診を中心に、必要に応じて肛門鏡での観察を行い、裂肛の状態を確認します。多くの場合は、便を柔らかくする内服薬や外用薬による保存的治療で改善しますが、慢性化して肛門狭窄が進んでいる場合は、手術による治療を検討することもあります。
保存的治療では、便通を整える薬に加えて、傷の治りを助ける軟膏や、痛みを和らげる坐薬などを組み合わせて処方することが多く、多くの方が数週間程度で症状の改善を実感されます。手術が必要な場合も、日帰りでの対応が可能なケースが多く、入院への抵抗感から受診をためらう必要はありません。
診察の際は、視診で傷の位置や状態を確認し、必要に応じて肛門鏡で内部の状態もあわせて評価します。慢性化して肛門が狭くなっている場合は、狭くなった部分を広げる処置や、傷の周囲の組織を切除する手術が検討されることもありますが、まずは保存的治療で経過を見るケースが大半です。
「恥ずかしくて相談しにくい」と感じる方も多い部位ですが、当院では日帰りでの外科的処置にも対応しており、プライバシーにも配慮した診察を心がけています。待合室からお会計まで、周囲の目が気にならないよう配慮した動線づくりも行っています。痛みが続く場合は、我慢せずご相談ください。
裂肛(切れ痔)は硬い便による排便時の傷が主な原因で、痛みから排便を我慢するうちに便がさらに硬くなり、繰り返し切れてしまう悪循環に陥りやすいのが特徴です。放置して慢性化すると肛門が狭くなり、生活改善だけでは治りにくくなることもあります。水分・食物繊維を意識した食生活や排便習慣の見直しで多くは予防・改善できますが、痛みが続く場合は「そのうち治るだろう」とせず、当院までお気軽にご相談ください。
・日本大腸肛門病学会「肛門疾患診療ガイドライン」
・厚生労働省 e-ヘルスネット「痔核・裂肛」